働くことを、あたりまえに支える場所
千葉県いすみ市で、障がいのある方とともに農業や就労支援に取り組む社会福祉法人土穂会「ピア宮敷」さんを訪ねました。
この場所の出発点は、とても切実なものでした。 重度の知的障害や強い自閉傾向のある方を支える施設が足りず、ご家族が将来に不安を抱えながら日々を過ごしている現実がありました。
「人は、障害があってもなくても、よりよい人生を送りたいと願っている」
会長の多田美穂子さんの言葉には、その思いがまっすぐに込められていました。
人と向き合う現場から始まる
迎えてくださったのは、第1工房で農作業を担当する伊東孝浩さんです。 伊東さんが福祉の道を選んだきっかけは、障害者施設で働いていたお母様の存在でした。
畑では、土づくりから苗植え、水やり、収穫まで、さまざまな工程があります。 夏は暑く、冬は寒い環境の中での作業です。
それでも、「利用者の方が昨日までできなかったことが、今日少しでもできるようになったときの喜びは大きい」と伊東さんは話します。
利用者の方々は、それぞれ異なる表現方法を持っています。 言葉だけではないやり取りの中で、少しずつ意思疎通ができるようになり、笑顔が増えていく。
その変化に立ち会えることが、この仕事のやりがいだと感じているとのことです。
地域の農業を支える存在へ
ピア宮敷では、利用者一人ひとりの力に合わせた作業を提供しながら、農業に取り組んでいます。 生産した野菜は、地域のスーパーや施設の給食、学校給食センターなどに届けられています。
特に有名なのが、千葉県の名産でもあるナバナの出荷です。
地域のお母さんたちにもお手伝いいただき、障がいを持つ利用者がナバナの生産に取組んでいます。今では、一面の菜の花の黄色と緑、ピンク色の桜が同時に咲く風景が広がり、地域の人たちに親しまれるひそかな名所になっています。
福祉の現場でありながら、地域農業の一翼を担う存在として、しっかりと機能しています。
素材を活かす、商品づくり
ピア宮敷では、ナバナをはじめとした緑黄色野菜を生産していますが、その美味しさを引き立てるごま油2種類や「ごまからちゃん」といったごまの加工品も手がけています。
ごま油は風味が豊かで、ナバナとの味の相性がとても良く、ビタミンAなど栄養の吸収も高めてくれます。 「ごまからちゃん」は、油を搾った後のごまですが香ばしさがしっかりと残っていて、軽い口当たりで食べることができます。
おすすめは、ナバナをごま油で軽く炒めて、「ごまからちゃん」をひと振りする食べ方。 シンプルですが、素材の良さがよく伝わる一品です。
日々の食卓に自然に取り入れられる、栄養豊かでやさしい味わいの旬のレシピです。
「働く場」を自分たちでつくる
ピア宮敷ではもう一つの取り組みにうどん店「どんちゃん」があります。
いすみ市の国道沿いにあるこのお店は、就労支援の場として2009年に開業しました。 地域の中で障がいのある方が働く場を見つけることが難しい中、「それなら自分たちでつくろう」という発想から生まれたものです。
提供されているのは、コシのある讃岐うどんと、あっさりしながらもコクのあるお出汁。 ボリュームもあり、地域の方々から高い評価を得ています。
ナバナの季節には天ぷらも人気のトッピングとしてよく注文されています。
ここでは、接客や調理、配膳などさまざまな形で利用者が関わっています。 「働く」という経験を、現実の仕事の中で積み重ねていく場です。
シナのモノがたりより
この場所で感じたのは、「あたりまえに働く」ということの重みでした。
特別な支援というよりも、日々の積み重ねの中で、知的障害を持つ利用者ができることを増やしていく。 その結果として、農業や飲食といった仕事がきちんと成立している。
やさしさだけでは続かない現場で、きちんと仕事として成り立たせていることに強さを感じました。
畑での作業、商品づくり、うどん屋での仕事。 どれもが、誰かの役に立つ形で地域社会につながっています。