群馬県前橋市で大規模な農業を手がける、社会福祉法人ゆずりは会の就労継続支援B型事業所「菜の花」さんを訪ねました。
訪問した日から2〜3日ほど雨予報が続いていましたが、屋内では利用者の皆さんが収穫した長ネギの出荷作業に取り組んでいました。
静かな集中の中に、それぞれの役割がきちんとある。
その空気から、この事業所の力を感じました。
「高工賃」を掲げる理由
迎えてくださったのは施設長の小淵久徳さんです。
菜の花は平成26年の開所以来、着実に実績を積み重ねてきました。
特に全国的に注目されているのが、平均工賃の高さです。
令和4年度は76,221円、令和3年度は54,262円、令和2年度は50,024円と、年々伸びています。
さらに、その金額を公表している点も、この事業所の特徴です。
掲げている理念は「インクルージョン『高工賃と就労支援』」。
ただ働く場をつくるのではなく、生活を支える収入につなげることを明確に目標にしています。
障がいがあっても、自分で選んだ場所で暮らし、働き、生活を成り立たせること。
その実現のために、地域や事業者と連携しながら農福連携の仕組みをつくってきました。
高品質な農産物や加工品を販売し、その利益を利用者に還元する。
その循環が、結果として高工賃につながっています。
地域農業の中で担う役割
菜の花の事業は、福祉の枠にとどまらず、地域農業の担い手としての役割を果たしています。
糯米や季節の野菜の生産に加え、若手ベンチャーの酒蔵に原料米を提供し、日本酒づくりなどのチャレンジングな商品開発にも関わっています。
菜の花は、単なる生産ではなく、地域の中で価値を生み出す一翼を担っているということです。
前橋市の「水と緑とうたのまち」というテーマに合わせた手ぬぐいの制作など、地域文化ともつながるアートクラフトも展開されています。
また、有機栽培の麦茶は夏の作業に欠かせない存在として親しまれています。
甘酒は、自然栽培の稲の古種「亀の尾」を使った看板商品で、累計販売本数は7,000本を超えています。
どの商品もただ作るのではなく、「売れるもの・喜んでもらえる体に良いものをつくる」という視点が徹底されています。
一人ひとりの価値を見つける現場
出荷作業の現場で印象的だったのは、利用者一人ひとりの働き方です。
重度の知的障がいのある方も、ゆっくりと確実にネギを扱っていました。
その様子を見ながら、小淵さんはこう話してくれました。
「あの子が作業できていること自体がすごいんです。人が10本やるところを1本のペースだとしても、それは価値のあることなんです」
この言葉に、この事業所の本質があるように感じました。
菜の花では、10数個から30項目以上の指標を用いた、各段階ごとの絶対評価を行っています。
1日3回、スタッフが利用者と対話しながら、その日の作業を振り返ります。
評価の基準は、他人との比較ではなく、「昨日の自分と今日の自分」です。
その積み重ねが、根拠ある工賃設定と高い目標へとつながっています。
高工賃はあくまで成果であって目的ではなく、人の成長と尊厳を大切にした先に自然と生まれているものなのです。
「三方よし」を実現する仕組み
菜の花の取り組みは、利用者、地域、事業所のすべてにとって意味のある形になっています。
良い商品をつくり、しっかり売ることで利用者に還元される。
その結果、働く意欲が高まり、さらに良い商品が生まれる。
地域の農業や企業とも連携しながら、循環が広がっていきます。
この構造そのものが評価され、ノウフクアワードなど各賞の受賞にもつながっています。
シナのモノがたりより
取材を終えて印象に残ったのは、「人の幸せをきちんと考えている現場」だということでした。
仕組みも、商品も、工賃もすべて大切ですが、その根底にあるのは「この人がどう生きていくか」という視点です。
それがぶれていないからこそ、結果として全国でも高い評価を受けているのだと思います。
後日、お土産にいただいた甘酒を家族に飲んでもらったところ、普段はあまり甘酒を好まない家族が「これは美味しい」と驚いていました。
体の内側から力が湧いてくるような感覚があり、「飲む点滴」と言われる理由を実感しました。
あの畑で穏やかに働いていた利用者の皆さんの姿が、ふと重なりました。
想いのこもった商品を見る
糯米、甘酒、季節の野菜。
どれも、仕事と想いがそのまま形になった商品です。

菜の花さんが手がける商品を、一覧ページでご紹介しています。
気になった商品がありましたら、ぜひチェックしてみてください。